アンダーガーデン

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人間の心って本当に変化しやすいものだなぁと駅のトイレで感じた話。

電車の中、腹が痛い。体の芯から重くなるような、あの感覚が私を襲う。

 

しかし途中下車してトイレに行ってまた電車が来るのを待っていると遅刻してしまう。

 

あと3駅で目的の駅だ、なんとか我慢しようと思い、止まっていた駅を見過ごす。

 

その瞬間、腹痛が一段と強くなる。私は後悔する。

 

それでもまた次の駅に着くと不思議と少しだけ軽くなっている。「いけるな」と思ってまた電車が動き出すと後悔。

 

こんな事を3度繰り返し、やっと目的の駅に着く。

 

運良く少し腹痛がマシである。階段を二段飛ばしで下り降り、最後の三段は一気にジャンプ。

 

なんとかトイレに駆け込むも、そこには絶望的な光景が広がっていた。

 

私の前に、同じく個室のトイレを待っている人が数人いる。

 

3つある個室トイレの内、幸いにもすぐ2つのドアが開いて人が出てきた。前列の2人が変わるように入る。

 

前方にはまだ2人も並んでいる。冷や汗が出てくる。

 

人目を憚らず壁に手をつく。少しだけ前のめりになる。

 

朦朧とする意識の中、私は善に目覚めていた。

 

あぁ、私の後ろに並ぶ人達も、こんな思いをしているのだろう。早く救ってやらねばならない。

 

私は自分の番が来ても、落ち着くことなく速攻で用を足してやろう。今は一刻一秒が永遠のように感じられる。少し早く出てきてやるだけでも、全然違うだろう。

 

それだけじゃない。私は残りの人生をかけて、少しでも周りの人達を助けよう。

 

自分にできる事があれば、なんでもしよう。そうだ、こまめに街を清掃しよう。

 

人類全体のためにも何かしよう。そうだ、森林を広げよう。エジプトに行って砂漠を緑化するのもいいだろう。

 

確かに俺一人の力では微々たるもんだろう。人生をかけて千本ぐらい木を植えれるかどうか。それでは世界は何も変わらないかも知れない。

 

でもこれは、俺の気持ちの問題なんだ。世界が変わらなくたっていい。人生をかけてなにか良い事をするんだ・・・。

 

とにかく、トイレから出てきたら、まずは財布の中身を全部・・・いや、500円ぐらい募金しよう。これでも私にとっては大金だ・・・大金なんだ・・・。

 

そう考えている間にも、さっきと同じ、手前と中央のドアが開いた。前の2人がトイレに入り、私は最前列となる。

 

さっきから、一番奥のドアが開かない。何をしているんだろう。

 

ひょっとして、用もない人間が、仕事をサボって休憩でもしているのだろうか。いや、こんな時間帯にそれはない。だとすれば、なぜだ。奥に入っている奴は、人を困らせたいのだろうか。近くにこんなに苦しんでいる人が大勢いる。それを奥の住人は楽しんでいるというのか。

 

怒りはない。憎しみもない。ただただ、深い悲しみである。これが人の本性なのか。いや、そうではない。少なくとも私はああはなるまい。これからの人生を使って、世のため人のために生きるのだ。

 

私のココロの声が聞こえたのか、奥のドアが開いた。特におかしくもない普通の男性がドヤ顔で出てくる。

 

そのドヤ顔に腹を立てる暇もなく、私は小走りでトイレに駆け込む。

 

和式である。危うく片足を突っ込みそうになりながら、震える手でなんとかズボンを下ろした。

 

間一髪、セーフである。

 

その瞬間、私の善意は、私の体に重くのしかかっていた便意と共に、体からストンと抜け落ちてしまう。

 

そして私は、物凄い勢いで悪に支配される。ほんの一瞬だけその悪に逆らおうとするも、全く歯が立たない。私の善意は悪の濁流に完膚なきまでに流されていくのである。

 

あぁ、もうこっちのものだ。待っている奴など知らぬ。私はこんなに苦労したのだ、余韻を楽しむ時間ぐらいあってもいいだろう。